slow jeans

午後5時頃、事務所の窓を見ると、
夕陽が差し込んでくるのをブラインドが遮りながらも、
日暮らしを感じることができた。
窓辺に近づき、事務所がある2Fから下に視線を送る。
歩道に静かにしているがこちらを見上げる人がいた。
それはうちの会社に用事があると言う訳ではなく、
むしろ他の用事で困っている様子だった。
と言うのもうちの会社は限られた人以外の出入りがほとんどない上に、
その見上げる人は学生服を着た男子高校生風だった。
中学生よりも大人で、成人未満の顔つきと仕草にぼくは見えた。
「今日の夕食どうする?仕事が溜まってるし、いつものコンビニで済ませる?」
と先輩のAさんが聞いてきた。
そう言えば、そろそろ夕方の休み時間だ。
すっかり忘れていた。
正直それどころではないが、腹がへっては戦ができない、とも思う。
大人しく、「そうですね、コンビニかそれか近くの弁当屋にしましょう。
一度弁当屋を覗いてから混んでるようでしたら、コンビニにしましょうか?」と答えると、
Aさんも「そうだな、それが一番無断だな。」と決めていたように答え返す。
「あっ、煙草がきれかかっているから、行こうか?」と散歩の口実を作ってみると、
「頼める?御願いするわ。いつものAセットとお茶か、コンビニだったらカップらーめんを買ってきて」。
「わかりましたー、後朝に冷蔵庫見たら水が無くなりかかってたので補充しておきます」。
「よろしくー」。
うちの会社は一つ上のAさんと、今日は休んでいるアルバイトのB君と、ぼくだけだ。
Aさんが社長で、たまに手伝いに来る奥さんと大学時代のサークルで知り合った。
就職して4年が過ぎた時に同窓会を開いた時に、次の年に結婚してお店を開くつもりだったようで、
その時に声をかけてもらった。
上司とは反りが合わなかったから好都合だと思って翌日に了承の電話をいれた。
お店は、輸入の雑貨や服、オリジナルのアクセサリーなどを扱っていて、
大通りに面している事と近隣に洋服店などがないのが功を奏したのか、なかなかの繁盛だ。
メインのお客さんは近くの大学の学生で、若い人との面識が良い奥さんにとっては、
悪き気がしない日々だと思う。
奥さんとは同じサークルで、仕事まで同じだと言うのに、事務所とお店の距離があるからか、
むしろ旦那さんの社長であるAさんの方が関係は深い気がする。
男同士だとそんなに簡単に仲良くなれるものか、とぼく自身も疑問に思いながらも、
今の職場環境や関係には感謝している。だから深追いすることもないかと思っている。

エレベターもあるが、階段で降りた方が早いのでそちらを選んで降りて、
先の学生がいるか見てみると、手には地図と肩に鞄を掛けていた。
どうやら思ったよりも幼くて、エラメルの鞄には「中学」の文字と暗がりに見える顔が証明している。
地図を手に持っているところから、道に迷ったようなので、声をかけようと思った。
すると、向こう側から歩いてきたおばさんに聞いたので、ぼくは反対方向を順路とする。
事の成り行きを見ていた訳だし、その成り行きに任せるのもいいだろう。
会社の自転車があるから使えばよいのだが、5分ばかしの散歩にする。
夕方の帰り道の人やこれからも働く人と通りすがりながらも歩くこの時間は良い。
取り立てて、何かを見るはずはなく後で話のネタにすることもないが。
誰の時間でもなく、すごくどこまでも自分の時間だと思う。
迷惑をかけない我がままな時間。
だから事務所には社長とバイト用の自転車の2台しかない。

近くには大学のそばまである商店街があって食品なんかも揃えれば、
台所で作ればお金も浮くし健康的なのだけれど、
やはり時間と簡易的な台所だからいつもテキパキ済ませるに限るとなる。
奥さんが店が休みの日か営業時間を済ませてから、
それとか前の日のおかずを気をきかせて差し入れしてくれたりする時は本当においしい。
サークル時代はわからないけど、料理は好きみたいで、お店と両立するのがいいみたい。
もちろん、料理の味のおかげもあるだろうけど、
なんだが普段のテキパキ済ませているからこそおいしく感じるとも思えなくもない。
だけど、料理の味がおいしいからだ、と思っている方が平和的でなにより気持ちがいい。
多分事実そうなのだろう。
弁当屋を覗くと、意外と空いていて一人がカウンターで注文しているだけ。
中に入って待っていると前のお客さんがビニール袋を受け取って、
すぐにぼくの番が来たから「Aセットとお茶を二人分」と頭に浮かべていたものを注文した。
それとカウンターに置いてあるおにぎりが二つに入ったのを、「これも二つ下さい。」と右手で軽く持ち上げて言った。
夕方の忙しくなる前の時間らしく、すでに用意されているのがすぐに出てきてたので、
ここでもテキパキと済ませて、「ごめん、ちょっとこれ置いといて、すぐにとりに来ますから」と伝える。
さすが常連と言った感じで、要領を得た返事でカウンターの女性が「わかりました、おあずかりしておきますねー」とスマイルを。
弁当屋の通りを一本奥に行くと、コンビニがあって、そこでいつも水を買って、そこから弁当を貰っていくのが算段。
コンビニはそこだけで用事を終わらせるのは便利だけど、前に買物をしていたりすると、妙に恥ずかしい。
映画を見に行った帰りにパンフレットが袋越しに見えたりするのも同じような気がする。
だからではないけど、町の弁当屋さんというような「町の店」があると助かるし、こんな時ありがたいと思ったりする。

会社に入る前に下の通りを見てみると、と言っても前だからこの場合は見てみるというよりも、
おのずと見る事になるのだが、とりあえず見てみると、さっきの少年は居なかった。
彼が目当ての所に行ったかはわからないけど、そうなっているといいなぁと思う。
いまさらだけど道探しだったのかが、すごくに気になりはじめた。
バイトのB君が頑張ってくれているから、今はバイトの募集はうちはやってないし、
前が大通りで近くは不動産や花屋さんと学生がいかにもいきそうな所が多い。
エナメルの鞄を提げていたから野球部かサッカー部としてみるとスポーツ店だと合点がいくけど、
近くにスポーツ店はないし、公園やグラウンドは彼が来た手前にある。
B君の友達か弟かな?とも思うけど、愛想が良くて無駄話が上手だけど彼は仕事はきっちりするタイプだから、
バイト先に呼んだりしない。
それと現代の日本では「文明の利器」の代表格、携帯電話があるから何かあったらだけじゃなくても、
メールや電話をするのが習慣だしなぁ。
そんな気になりはじめたことを、会社に戻って弁当をつまみながら、冷蔵庫に水とおにぎりを片付けたりしながら、
名探偵になったつもりでぶつぶつ言うがお腹を満腹にしたことで、それも終息に向かう所が名探偵ではないらしい。
三人寄れば文殊の知恵というが、以前に社長と格闘しながらコピーを直そうとしてもなんともならないのに、
そこに出勤して来たB君が「どうしたんですか?」と聞いてたのを皮切りに、上手い事なぜか直った。
三人寄ればコピーだって直る、が我らの教訓ではないかと思い出して、
社長に「どう思います?」と聞いてみると「ん〜、道探しじゃないかなぁ、それが一番的を得てる気がする」と返ってきた。
言われてみると、素直でシンプルではあるが確かにそんな気がする。
だけど今日は我らに知恵を授けたB君は休みだし、新たなる三人の奥さんは来る予定はない。
電話するのは、それが一番おかしな答えだとさすがに思うから、後日にしよう。

事務所は店らしくて、やはり段ボールが多くて、大きくあり、面積を大きく取っている。
だから倉庫というのが一番正しいのかもしれないが、日本のどこの雑貨・洋服店でそうしているように、
事務所としている。その名前に相応しいのはノートパソコンがぼくの分と社長の分の二台があって、
レターケースと書類を収めるファイルとプリンターやコピーと複合のファックスぐらいかな。
後はやはり段ボールと商品に張る為のタグや修繕などに使うミシン機の周りにハサミやメジャーがいくつあって、
縦型のえんぴつ入れの中にボールペンやマジックやえんぴつが、高校や中学の美術室の先生の机の上で見た光景と同じように
バラバラとしながらも手癖が伺える順序持ちがながら置かれている。
それと、各ブランドの「年表総覧」なるものという事務なのか個人のものなのかがもはやよくわからず置いてある。
店を開ける時に一応形にしておこうと考えて、机は白で、それらしく見えるものを選んだ。
それと清潔するのは服飾だと当然だが、アクセサリーを作る時やミシンを使う時に白の方が裁縫などがしやすい。
だからミシンやハサミのテーブルも白を選んでいる。
窓に近い側に置いてあるから、ブラインド越しに入ってくる光が砂時計のように徐々に白がオレンジに変わってくると一日の暦が進むのを感じる。
何度か部屋替え、というよりも手狭になってきたので追いやられたと言った方がいいだろうけど、
ちょっとした歴史の後に今の場所にある。
玄関口を開けるとフロアがあって、一番置くに社長の机があって、入り口から右手の窓に向かってぼくに机を置いてある。
一応お客さんが来ることもあり、打ち合わせようにテーブルがあって、これは木目のもので落ち着いて使えるようにしている。
入り口の左側に縦に部屋があり、トイレと炊事場があって、倉庫が一番奥にある。
お客さんのオーダーよりも増えたり、シーズンを過ぎたものなどが「在庫」として一色単になり、
フロアにも段ボールやハンガーに掛けたものがあるからもはや倉庫との境界がない。
あるとしたらお客さんの日の目に出る場所に置いているかぐらいで、店の方にもある小さな倉庫が荷物がいっぱいになり、
狭く感じはじめると余計にわからなくなる。