306 よしもとばなな

この方の小説はむずかしいことばがあまりでてこない。
はなしをしっかりと消化されていて、
まるでご自身のはなしのようである。
長短はあるにせよ、短めのものが多い。
だが、読んだあとに残る。
それはあのはなしのあの部分というものよりも、
イメージとしてである。
それは友達などと食事をしてたりしながら、
他愛もないことやすこし真面目なはなしをしたり、
たまにびっくりするはなしをしているのを、
こないだそういえば食事に言ったなぁーっと思い出すように。
ことばというのはもちろん頭に残るものだけれど、
理屈じゃなくって、こころやからだに残る。
その場合の残るっていうのは、
ごはんを食べたのが消化されて後々に細胞に残っているように、
旅行にいった先の景色が目や鼻や耳の五感に残るように。
その残り方は特別な時間ではなく、
子供のころ、赤ちゃんのときに大変したことのある、
不思議にうれしかったり、
不思議にわくわくしたり、
不思議にあたたかかったりするものだと思うのだ。
特別でないありがたいものとして、
なんでもない日をありがたいものとして、
ぼくたちの細胞に残るように。